内田勝先生追悼文03
「情報の情念」
若松孝司(大阪大學医学部附属エックス線技師学校・八期)
内田先生主催のゼミで、工学者との物理・数学の学力の差を先生に嘆きましたところ、「君はエックス線技師を仕事としているのだから情念で学問しなさい。この本を最後まで読み通しなさい。」と云われて滝沢英一著の“情報の理論と演習”を下さいました。内田先生のご指導のもとで辿り着きましたエントロピー解析の情念の結果をここに掲示致します。
正規分布する雑音とそれに対応する信号の検出理論はそれぞれの多変量正規確率密度関数の尤度比の対数(エントロピー)を解析することによって論ぜられる。入力信号をデルタ関数としてシステムのシステム関数マトリックスをH、雑音の共分散行列をΦnn、とする。
正則行列Φnnの逆行列Φnn-1は正則行列である。正則行列は転置行列上三角マトリックスBTと下三角マトリックス(雑音白色化フィルタ)Bとの積(Φnn-1=BTB)で表される。
多変量正規確率密度関数の解析は、等分散HTΦnn-1Hと平均値の差をHTΦnn-1Hとする雑音側と信号側との正規確率密度関数との解析すなわち等分散ROC曲線に移される。
システムの伝達関数をMTF(u)、ウィナースペクトルをW(u)とするとW(u)×1/W(u)=1
(白色雑音)から次の結果が得られる。
検出能(SNR)d’
最大伝達情報量(Entropy)Imax(bits)はROC曲線座標の左肩上がり対角線上にある。
この対角線上で、P(S|s)=P(N|n), P(S|n)=P(N|s)。(信号と雑音の事前確率は等しい。)
1,2,3,4,5,式により、信号検出理論、エントロピー解析、写真情報物理学におけるNEQ(u)とDQE(u)の結果が繋がりました。これは27年前に得たものですが、今日IECにおいてNEQ(u),DQE(u)の測定法が世界的に標準化されています。
“ガウスの定理を証明して発散の定理からラプラスおよびポアソンの方程式を説明せよ。” この様な課題が技師学校における内田先生の過酷な試験問題でした。電気学会編の電磁気学や微分積分学の教科書を情念でもって読み切ることを学生に要求されました。50年前のボロボロになった当時の教科書を今、懐かしく見入っています。
私はエックス線によって四度ばかり命を救われました。定年後もエックス線技師として勤めて参りました。これからも残りの時間をレントゲン博士に感謝しつつ内田先生が与えて下さいました学問に対する情念を忘れずに“レントゲン技師”の仕事に真摯に生きて参ります。内田先生有り難うございました。