第16回日本遺伝子診療学会
〜バセドウ病〜
難治例でIL1B 遺伝子-31Tアレル頻度高い
甲状腺疾患の難治性や重症度と遺伝子多型との関係について検討を進めている大阪大学大学院保健学専攻生体情報科学講座の渡邉幹夫氏らは,バセドウ 病患者で,寛解群と比べて難治群でインターロイキン(IL)-1βの遺伝子多型で-31Tアレルの頻度が高いことを明らかにした。
Th17細胞の増殖,活性化を誘導
ヘルパーT細胞(Th細胞)のサブセットとしては,細胞性免疫を担い炎症を促進するTh1細胞,アレルギーや液性免疫にかかわり抗炎症作用を持つTh2細胞のほか,初期炎症を誘導するTh17細胞も知られている。
末梢血中のTh1/Th2細胞数比は,橋本病の重症群では軽症群よりも有意に高いが(=Th1優位),バセドウ病では難治群と寛解群で差はなく, いずれも健常群と同程度であることが示された。一方,末梢血Th細胞中のTh17細胞の割合は,橋本病,バセドウ病ともに健常群より有意に高かったが,と りわけバセドウ病難治群で高く,寛解群との差も有意であることがわかった。そこで,渡邉氏は「難治例では遺伝的にTh17細胞が分化増殖しやすい状態にあ るのではないか」と考え,ナイーブTh細胞からTh17細胞に分化する際に関係するIL-1βをコードするIL1B 遺伝子上の機能的な-31C/T多型を検討した。ちなみに,同多型ではTからCへの塩基変化により転写活性が低下することが報告されている。
IL1B 遺伝子-31C/T多型の頻度は,橋本病では重症群と軽症群で差はなかったが,バセドウ病の難治群では寛解群と比べて,IL-1β産生能が高いTT遺伝子型およびTアレルの比率が有意に高かった。
橋本病とバセドウ病を合わせて末梢血中Th17細胞比率を調べたところ,Tアレルを持つ遺伝子型(TT型,CT型)ではTh17細胞の割合が有意 に高かった。同氏は「TアレルはIL- 1βを産生する能力が高いため,Th 17細胞の分化が進んでいるのではないか」との考えを示した。
以上の結果をまとめて,同氏は「IL1B 遺伝子-31Tアレルを持つバセドウ病患者ではIL-1βの高産生能がTh17細胞の増殖,活性化を誘導し,バセドウ病の難治化に関与している可能性がある」と締めくくった。