HOME > 研究内容

研究内容

前臨床イメージング研究の基盤整備

大阪大学保健学専攻に2017年11月に前臨床用1.5T-MRI、2019年7月に前臨床用7T-MRI、2019年12月に小動物用マイクロCTを導入しました。また、学外では国立循環器病研究センター先端医療技術開発部で前臨床7T-MRIの管理・運用に携わっています。この2つの施設において、前臨床イメージングの環境整備および高磁場MRIを用いた先端画像技術や病態診断技術の開発を行います。

前臨床イメージング研究の基盤整備

脳疾患モデルへの先端画像技術の適用

脳疾患には、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患、多発性硬化症などの脱髄疾患、神経膠芽腫などの脳腫瘍などがあります。現在、MRIはこれらの脳疾患に対して、最も有効な画像診断技術となっています。既存の解剖学的な評価法に加え、水分子拡散イメージング(DTI、NODDI)、脳代謝物イメージング(MRS、CEST)、脳血管や脳血流イメージング(MRA, ASL)などの多面的なイメージング技術を積極的に応用し、より詳細に病態診断や治療効果判定を可能とする新たな画像バイオマーカーの探索を目指します。

脳疾患モデルへの先端画像技術の適用

心疾患モデルへの先端画像技術の適用

現在臨床で用いられている心臓の画像診断技術は心臓の拡張や収縮に伴う容積や形態的な変化を捉えることで心機能や心筋の病態を評価しています。そのため心臓の形態変化が起きる前の早期病変や形態変化を伴わない疾患の評価は困難です。当研究室では前臨床用超高磁場7T-MRIを用いた齧歯類の100μm以下の高分解能心機能イメージングや心筋組織性状イメージング法の開発を行い、心疾患モデルへの適用を行うことで、心疾患病態の早期検出、形態変化を伴わない心筋組織変性の検出を目指します。現在までに、マウスの心筋壁厚マッピングの開発(MRI 2017)、拡張型心筋症モデルにおける心機能低下の早期検出(Sci Rep 2017)、名古屋大学との共同研究により心臓内の線維芽細胞が心臓の線維化・硬化をもたらす筋線維芽細胞に変化する過程を明らかにしました(Circulation research 2019)。

心疾患モデルへの先端画像技術の適用

肝・下肢・関節疾患モデルへの先端画像技術の適用

MRIは脳や心臓だけではなく、肝臓、腎臓、筋肉、関節など体の多くの部位の画像診断に利用されています。組織の形状だけではなく、造影剤や拡散イメージング、化学交換飽和イメージングなどを応用することで、臓器の機能や代謝を画像化することができます。我々はMRP2肝排泄トランスポータの欠損ラットであるEHBRラットにおいて、Gd-EOB-DTPA造影剤の取り込みと排泄能の低下が起こることを明らかにしました(Invest Radio 2013)。また、大阪大学生命機能研究科医化学講座との共同研究によりクレアチンの分子イメージングであるCr-CESTを確立しました。マウスの急性エネルギー枯渇モデルである下肢虚血モデルにおいて、虚血の程度に応じて、Cr-CESTの信号強度が変化することを明らかにしました(JMRI 2019)。

肝・下肢・関節疾患モデルへの先端画像技術の適用

胎生期の放射線被ばく影響の可視化

胎生期の放射線ばく露は器官形成に影響を与えることが知られています。齧歯類の胎生期13 -15日目にX線を被ばくした放射線ばく露モデルを作成し、血液脳関門は正常な発達をすること、脳血管密度は末梢において低下し、それを原因として脳血流の低下が引き起こされることを明らかにしました(Radiat Res 2011, Cong Anom 2015)。さらに大脳皮質において神経細胞密度低下や海馬の層構造が異所性細胞により乱れることをマンガン造影MRIで可視化し (NMR in biomed 2012, Frontiers in Neural Circuits 2018)、白質線維において髄鞘化は正常に起こる一方で白質線維の密度低下や脳梁未形成が起こることを示しました (PLoS One 2015)。

胎生期の放射線被ばく影響の可視化

正常組織および腫瘍組織への放射線応答反応の可視化

放射線治療によって照射された組織や臓器は、放射線の影響を受けることで障害が起こる可能性があります。放射線治療における副作用や治療効果を評価することを目的とし、正常な肺や腫瘍組織などに対する放射線の影響を可視化する研究を行いました。成体マウスの正常肺に対し20 GyのX線照射し経時的に肺組織障害をマイクロCTにより評価し、肺組織障害とCT値の変化の関係を明らかにしました (PLoS One 2012)。また大腸がん担がんモデルマウスの腫瘍部に20GyのX線照射を行い、照射24時間後の細胞周期の変化をマンガン造影MRIにより観察を行いました。細胞内へのマンガン造影剤の取り込み量の低下が放射線による細胞周期の停止を反映することを発見し、MRIにより細胞周期の変化を画像化することに世界で初めて成功しました(Cancer Research 2013、読売新聞5月27日号夕刊3面掲載)。

正常組織および腫瘍組織への放射線応答反応の可視化