科学的根拠に基づいた癌に対する免疫療法の開発
~Bench to Bed, Bed to Bench~
有望な癌抗原『WT1』
19世紀の終わり頃にコーリートキシンの投与により始まった癌に対する免疫療法は、2010年代の免疫チェックポイント阻害療法の登場により広く一般に認知されるようになった。
我々が癌抗原であることを見出した『WT1』は、癌に普遍的に発現し、癌発生に不可欠な抗原であり、これを標的とした WT1ペプチドワクチンは、他に類を見ない有効性を示している。
WT1ペプチドワクチンの効果を更に高める方策の開発
WT1ペプチドワクチンは、癌抗原『WT1』を目印に、癌細胞だけを攻撃する副作用の少ない治療法である。マウスモデルを用いワクチンの効果を更に増強する方策として、①自然免疫を賦活化するアジュバントとの併用、②化学療法剤との併用、③分子標的薬との併用、④ヘルパーペプチドとの併用等を開発し、すでに臨床試験(治験)を実施している。
更に、WT1ペプチドワクチンの投与を受けた癌患者より得られたサンプルを詳細に解析し、癌免疫学における未解決の問題の解明に役立てる。そして、これらの研究成果より明らかになった知見を基盤として、さらに効果の高いWT1を標的とした癌免疫治療法の開発に繋げる。
治療ワクチンから予防ワクチンへ
現在のWT1ペプチドワクチンは、癌と診断された患者さんに投与する『治療ワクチン』である。
『WT1』は、癌細胞だけでなく、癌幹細胞や前癌病変に発現するため、『予防ワクチン』の標的としても期待できる。実際、マウスモデルで『予防ワクチン』としても有効であること見出し、現在、ヒトを対象にした『予防ワクチン』の臨床試験(治験)を進めている。
『ワクチン』とは本来予防的に投与するものである。感染症のワクチンの様に、「年に1回誕生日にWT1ペプチドワクチンを予防投与する」、そのような未来を目指し、研究を進めている。