研究の紹介
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脳の機能発現メカニズムの解明を目指して、マルチスケール・マルチモーダルイメージングという新たな手法により神経活動を見える化し、研究を進めています。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
Makoto Osanai 作『multiscale-multimodal-imaging』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

脳は素晴らしい情報処理装置であることは言うまでもありません。この脳は、無数のニューロンから構成され、それらは無数のシナプスで結合しています。この脳の情報処理機構を知るためには、神経回路を構成する複数の細胞から情報を同時に得る必要があります。
旧来の手法では、ある細胞に刺激を与えた時に、ある細胞から応答が取れたとすると、その細胞間には結合がある、と結論づけていました。ところが、実際の脳には、図1のように無数の神経細胞が存在し、それぞれが無数のシナプス結合を形成しています。

brain, circuit, neuron
図 1: 脳には無数の神経細胞が存在する (左下)。それぞれの神経細胞は無数のシナプス結合を持つ (右下)。
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Makoto Osanai 作『brain, circuit, neuron』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

これを単純化して、模式的に表したのが図2です。
左側の電極に刺激を与えたときに、右側の電極から応答が計測されたとします。この場合左側の電極で刺激された細胞と応答が計測された右側の細胞間には結合があると言えます。しかしながら、ここでは4つの細胞があるために、実際に信号が流れてきた経路は分かりません (単一シナプス経由と複数シナプス経由は区別できるかもしれませんが...)。

multi cell connection
図 2: 単一細胞から応答を計測するだけでは、情報が A, B, C, D のどの経路を通ってきたのか分からない。
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Makoto Osanai 作『multi cell connection』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

実際の脳の神経回路はもっと多数の細胞ともっと多数のシナプス結合がありますから、単一細胞で計測された応答を基に、その情報の流れを予測することは不可能です。脳での情報処理にはこのシナプス結合が重要な役割を担っていますから、どのような経路で脳内を信号が伝播しているかを知ることが重要です。
その方法の一つとして、蛍光色素を用いた光学イメージングがあります。顕微鏡を用いた光学イメージングを行うことにより、顕微鏡の視野に含まれる細胞の活動を一度に計測することができます。特に、細胞膜透過型のカルシウム感受性蛍光色素を用いることにより、標本全体の細胞内カルシウム動態を計測することができます (図 3)。
そこで我々は、脳における情報処理機構を解明することを目的とし、カルシウムイメージングを主な手法として、多細胞同時活動計測を行い、神経回路の振る舞いを明らかにすることにより、脳機能の解析を目指します。

multicellular calcium imaging
図 3: 細胞膜透過型のカルシウム感受性色素を脳スライス標本に負荷し、顕微鏡で観察することにより、多数の細胞が観察可能。
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Makoto Osanai 作『multicellular calcium imaging』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスで提供されています。


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では、カルシウムイメージングで、何が分かるのでしょうか?
図 4 は、細胞内でカルシウム濃度 ([Ca2+]i) が上昇する機構及び、Ca2+ が作用しうる細胞内機構の一部を模式的に示したものです。まず、ニューロンが信号を伝達するときに発生する活動電位により、細胞の膜電位が上昇し、電位依存性 Ca2+ チャネル (voltage-dependent calcium channel) を開口し、細胞外から細胞内に Ca2+ が流入する結果、[Ca2+]i が上昇します。また、代謝型受容体 (metabotropic receptor) が活性化することにより、細胞内信号伝達経路を経て、細胞内カルシウムストア (小胞体: ER) からカルシウム放出が起こり、[Ca2+]i が上昇します。

calcium pathway and function
図 4: Ca2+ が細胞内に流入する経路の例および、Ca2+ が作用するイオンチャネルや酵素などの機能タンパク質の例。
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Makoto Osanai 作『calcium pathway and function』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスで提供されています。

つまり、活動電位に伴う細胞内カルシウム濃度上昇を観察すれば、多細胞の神経活動を同時に記録することができるし、細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出を観察すれば、多細胞から同時に細胞内信号伝達に関わる細胞内カルシウム濃度変化を知ることが可能になります。
Ca2+ は、図 4 に示すように、様々な、イオンチャネル、受容体、酵素などの活性を調節するので、[Ca2+]i の変化は、ニューロンの情報処理様式を調節し、同じニューロンでも状況に応じて入出力特性が変化することと関連していることが考えられます。つまり、[Ca2+]i の変化の特徴、および[Ca2+]i が変化するメカニズムを明らかにすることは、状況に応じて柔軟に情報処理を行う生体の神経回路における情報処理様式を明らかにすることにつながります。

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現在我々は以下のようなテーマで研究を進めています。
  • 定量的活動依存性マンガン造影 MRI (qAIM-MRI)、極微細蛍光内視鏡 (U-FEIS)、in vitro イメージング等を組み合わせたマルチスケール・マルチモーダルイメージング法の開発
  • マルチスケール・マルチモーダルイメージング、行動実験、電気生理学等による、脳機能発現メカニズムの解明 (特に大脳基底核)
  • 得られたデータを統合し、脳機能発現メカニズムを理解する

興味を持たれた方は、是非ご連絡を!


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