母性胎児科学研究室Endo's Lab
胎児診断や胎児治療、胎児の死へのグリーフケアから、よりよいお産・よりよい育児環境づくりまで、幅広い視点で胎児を研究しています。
胎児診断・胎児治療
大阪大学医学部附属病院では2015年より胎児診断治療センターを開設し、日々多くの妊婦さんとご家族とお腹の中の赤ちゃんに向き合っています。 近年、超音波技術の進歩や網羅的な遺伝子解析が進むことにより、ほんのひと昔前には分からなかった胎児疾患を早期に発見することが可能となってきました。 医療技術の進歩により、胎内治療という新たな選択肢を得ることができる胎児がいる一方で、現代医療では治癒することのできない病気を抱えている胎児と出会う機会も増えてきました。 “分かる”ことが増えると、必然的に“選択する”機会が増えていきます。少しずつ大きくなっていくお腹を共に見つめながら、医療者もまた、妊婦さんとご家族と、そして赤ちゃんとどのように向き合っていくべきか苦悩しています。
日本ではまだ、医療技術の進歩と倫理観の足並みが揃っていないのが現状です。 中期分娩という選択を決断した妊産婦さんや家族のために、どのようなグリーフケアを提供すればよいのか、 また、中期分娩に立ち会う医療者がどのように向き合っていけばよいのかについて、産婦人科、精神科、助産師、臨床心理士、遺伝カウンセラー、 医療ソーシャルワーカー、医療人類学者など多職種で連携して、適切なグリーフケアを提供できる体制づくりを目指しています。
生誕1000日見守り研究
個別に応じた子育て支援を実現し、お母さんたちの育児困難の解消を目指した研究であり、 スマートフォンやウェアラブルセンサー、 また新たに開発する子育て見守りロボットなどを用いて妊産婦や子供の生活状況(食事、睡眠、ストレス、運動など)を経時的にモニタリングし、 体調変化の予兆や子育てで困った時に、様々なアドバイスを適切なタイミングで提示できる仕組みを構築します。 産婦人科、医療情報部、情報科学研究科、人間科学研究科といった大阪大学内だけでなく他大学の研究者や企業とも連携して研究を進めています。
胎児モニタリングシステムの新たな開発
正しい子宮収縮を把握することは、分娩進行や子宮収縮の強弱の判断に必須です。また、子宮内の異常を察知するためにも役立ちます。 本研究では、シート型ワイヤレス子宮筋電センサを用い、筋電位の変化について機械学習を用い、出産に繋がる陣痛であるのか、そうではない偽陣痛なのかを判断し、 早産および常位胎盤早期剥離の早期・鑑別できるようなデバイスの開発・評価方法の確立に取り組んでいます。 (阪大産婦人科、大阪母子医療センター、国立循環器病研究センター、阪大産業科学研究所、神戸大学、PGVとの共同研究)
出産の現状を医療/文化/社会の視点から総合的に解明するための研究
妊娠や出産は、生物学的なヒトの身体における出来事であるとともに、それぞれの時代において、また文化や社会において意味づけされ、相互扶助の仕組みの中で営まれてきました。 しかしながら現代は社会的紐帯の希薄化、産む場所の問題、テクノロジーの介在と自己決定をめぐる困難、孤立化した育児など、社会変化の中で妊娠、出産、産後に新たな困難が生じていると言えます。 そのため、①現代の妊娠・出産・産後の現状を妊産婦や家族、医療従事者双方への、インタビューも含めた参与観察によって解明し、エスノグラフィーを作成し、②エスノグラフィーに基づき、 現代の妊娠・出産・産後を近現代の歴史的経緯の中に位置づけ、また異文化との比較を通して、その特徴を明らかにし、③ ①と②に基づき、妊娠・出産・産後に関して女性と家族、子供にとって必要な情報とは何か、 医療従事者、ソーシャルワーカー、さまざまなサポートグループの人々も交えてディスカッションを進めていきます。そしてそれらの成果を、シンポジウムやワークショップ、学会や出版物等での発表を通して広く社会に還元し、 現代の妊娠・出産・産後の現状を少しでも改善することを目指します。 (国際日本文化研究センター・安井教授グループとの共同研究)
骨盤臓器脱の早期予防に関する研究
バルーンを用いて子宮の圧力変化を超音波で計測し、硬さや大きさを評価する研究を行っています。 最近では、最新の3Dプリンターを用い、骨盤内臓器脱を対象に持続的に子宮を超音波で評価できるような超音波プローベ固定具の開発と評価を行っています。
周術期管理学研究室Ueno's lab
周手術期管理学教室は、外科手術介入を行う際の術前術後管理、さらには遠隔期フォローアップに関し、その発展を目標とした研究を行う研究室です。術前状態把握から始まり術後リハビリテーションまでを一本の道と捉えると、患者さんがその道の上を順調に歩んでいくことでQOL向上が可能です。この”あゆみ”を手助けするのが我々の役目です。その中で、今後は多職種チームでのアプローチがさらに重要になります。チームのなかの職業の垣根を外し、いろいろな視点からチームをコーディネートできる人材育成を目標とし、様々な研究テーマを考えていきます。新たな取り組みでは、周手術期管理にAIなどを積極的に導入し、医療機器操作を含めた新たな管理学を作ろうと考えています。周手術期医療に興味を持つ皆さん、ぜひ研究室をのぞいてみてください
数理保健学研究部門Mathematical Health Science
保健医療分野の研究者は、広範囲な学術領域を横断した研究をテーマとする分野です。そのため、疫学、生物統計学、計量経済学、計量心理学、オペレーションズリサーチなど様々な統計理論の中から、テーマに合った理論を選択し応用していく、総合的な知識が必要となります。当研究室では、疫学研究、臨床研究、基礎研究などで活用できる研究者を育成するために、統計学を広く学習できる環境を提供します。具体的には、地域がん登録資料を用いて、がんの罹患数推計、有病者数推計、患者の受療行動の解析、生存率のモデル適応の検討などを行っています。 数理保健学研究部門では、地域がん登録への愛着を育みつつ、登録率や登録精度の低さといった問題を抱えたデータの解析に日夜励んでいます。
大阪府のがん罹患者の死因に関する研究(NANDE班)
これまで、がん罹患者の詳細な死因は不明でした。がん罹患者の網羅的データベースである大阪府地域がん登録データと死因の網羅的データベースである人口動態統計とを組み合わせることにより、 がん罹患者の死因について詳細に検討することができるようになりました。本研究グループは、大阪国際がんセンター、社会医学講座環境医学教室と共同で、がんの罹患数推計、有病者数推計、患者の受療行動の解析、生存率のモデル適応の検討のみならず、既存とは異なる数理的なアプローチで検討を進めています。
がんサバイバーのライフコースに関する研究
がんの早期発見・早期治療、医療技術の進歩により、がん罹患者の相対生存率は上昇しています。 がんに罹患した後の予後だけでなく、より良い生活を営むにはどうしていくべきか、セルフケアはどこまで自立して行えるのか。といった、がん罹患後のライフコースをどう描いていくのかについて、数理的に評価する研究を進めています。
ストーマ保有者(オストメイト)の困難経験の社会実態調査
ストーマ保有者(オストメイト)は排泄管理に特別な技術を要する。排泄をこらえる事や臭気をコントロールするなど、社会生活上の困難感が数多く存在すると考えられます。 そのようなオストメイトの方々が社会生活を継続するうえで経験する困難感を長期的にフォローアップしています。 誰でもオストメイトになる可能性がある中で、これからストーマを造設することになった人、ストーマとともに生活をしている人、それらの人を見守っている家族や友人、 そしてストーマにかかわる医療従事者や行政など様々な方面に対して、ストーマについて正しい知識を得て、ストーマ保有者がより暮らしやすくなるような調査・報告を行っています。
保健医療データベースを用いたストーマ保有者数の推定と将来予測(ODEN班)
ストーマには治療の目的や身体要件により永久的ストーマと一時的ストーマが存在します。 どちらも排泄管理に特別な技術を要するため、ストーマ保有者は術後新たにその技術を習得し、社会生活に復帰するためには乗り越える課題が数多くあります。 高齢でのストーマ造設も増えてきており、超高齢社会においてストーマ造設者に対して適切に医療介護支援対策が継続されるようなシステム構築のためには、現状の実態把握と今後の需要予測が必要です。
レセプト情報・特定検診等情報データベース(National Database:NDB)、外科系学会の専門医制度連携の手術症例登録事業National Clinical Database(NCD)、 包括医療費支払い制度(DPC)参加病院の退院患者調査の提出データという3つの大規模データを用いて既存の情報から数理的な評価を進めています。
糖尿病重症化予防プログラム実証事業
我が国では、新規の人工透析導入患者数のうち、原疾患が糖尿病性腎症である者が最も多く4割以上を占めています。人工透析は医療費年間総額1.57兆円を要するため、人工透析の主な原疾患である糖尿病性腎症の重症化予防は、健康寿命の延伸とともに医療費適正化の観点において喫緊の課題です。保険者において実施されている重症化予防の取組について、腎機能等への影響等の長期的な効果と受診状況の変化等の短期的な効果の双方の観点から、介入・支援の効果やエビデンスを検証するとともに、効果的な介入方法について検討することを目的とした研究を進めています。本研究は、厚生労働省令和3年度高齢者医療制度円滑運営事業の一環で行う研究です。
看護基礎教育実践への適用可能性を目指したEOLケアシミュレーションの構築
大学教育において経験する機会が少ないEnd-of-lifeにおける、臨場感のあるシミュレーション教育を開発し効果を検証しています。 看護の世界ではまだ導入されて間もないOSCE(客観的臨床能力試験)による技術評価だけでなく、知識や態度、フロー体験やレジリエンスといった様々なEOLシミュレーション教育の効果について、無作為化比較試験を用いて評価を行っています。三重大学大学院と共同で研究を行っています。
看護業務の観測とデザイン研究、阪大病院眼科外来における待ち時間に関する研究
20年以上前より看護師・医師についてタイムスタディ(連続観察による業務記録)データの調査設計・データ収集・解析を行ってきました。未だ科学としての発展が乏しい保健医療領域の業務科学分野で、「手法としての科学」としてタイムスタディデータによる解析手法の検討を行っています。オブジェクト指向に基づく看護業務モデリングや業務プロセスの構造化解析、タイムスタディデータに基づく業務「段取り」の抽出に取り組んでいます。現在は、自己完結型外来診療である眼科の検査・診療・処置の実態を可視化するタイム&モーションスタディを実施中です。眼科診療では、様々な検査を外来で行います。タイムスタディ(連続観察による業務記録)・コンピューターシミュレーションの技術を活用しながら医師・看護師・視能訓練士と共同で調査を進めています。
AI技術を用いた看護記録の音声入力の実現を目指す研究
何気ない会話の中に重要な言葉が含まれており、医療者は会話を通して様々な情報を収集・評価をし日々の診療業務を行っています。また、救急診療や手術室ではリアルタイムに業務が進む中で記録を作成する必要性があります。 本研究では、手術室での医師・麻酔医・看護師の会話の情報から記録を作成するための基礎的調査を進めています。
ロボティクス&デザイン保健看護工学部門Robotics & Design for Innovative Healthcare (R&D)
本部門はわが国初の保健看護学と工学との共同研究講座として2010年4月に設立されたロボティクス&デザイン看工融合共同研究講座の流れをくむ部門であり、医学と工学の連携のみならず、保健看護学と工学の研究連携の創設と発展を担ってきました。臨床看護の問題を工学的理論や方法により解決していくためには、基本的な工学理論・技術の理解が必要であり、工学系研究者との交流が重要です。保健看護学における基礎的課題について工学的視点をとりいれて研究するだけではなく、学生達がその研究に関る過程において必要となる学習課題についても検討し本分野の基盤となる人材育成を図るとともに、その成果を臨床看護ケア技術として飛躍的に進展させることを視野にいれ研究を進めています。
これらの研究を進めることにより、保健看護学と工学の連携が学問的にも進展し、それぞれのバックグラウンドを持つ学生が共同研究できるプラットフォームを構成することができると考えています。本部門で構築された成果が新たな臨床看護技術に結びつくことは、わが国だけでなく世界の看護レベル向上にも寄与するものであり、国際的にも大阪発の多様な情報を発信できるものと期待しています。また、本部門における教育方法論は、わが国の保健看護学領域に新たな分野を開拓するものであり大きな貢献を為すと考えています。
インテリジェントビジョンセンサを用いた転倒転落予知の研究
転倒は日常的出来事であり、多くは偶発的な事故として扱われる。転倒・転落は、病院内でのインシデントの上位に位置するだけでなく、歩行移動能力低下を反映することで生活活動を著しく退行させ、生活の質を損なう結果を導く。 そのため、当研究では転倒転落などの危険行為を事前にキャッチをして看護師に連絡をするための、転倒転落検知システムを構築しようと考える。 プライバシの保護、無拘束な状態での患者の行動をモニタリングするためにインテリジェントビジョンセンサを用いて、リアルタイム画像処理を行う。
インテリジェントビジョンセンサを用いたプライバシー空間における動作検出
転倒は日常的出来事であり、多くは偶発的な事故として扱われる。転倒・転落は、病院内でのインシデントの上位に位置するだけでなく、歩行移動能力低下を反映することで生活活動を著しく退行させ、生活の質を損なう結果を導く。 当研究では、プライバシー空間であるトイレットにおける異常行動を主に考え、異常行動を無拘束でセンシングすることを考える。 そのためにインテリジェントビジョンセンサを用いて、リアルタイム画像処理、表情など個人情報を載せずに、移動量だけの時系列信号を解析する。 また、当研究では、発生時にADLを低下させる転倒だけでなく、重篤な結果をもたらす縊首などの特異動作を含めて検出することを可能とする
無人タイムスタディに関する研究
現在の日本では高齢社会が到来しており、病院・施設内において高齢者が増加している。今後の高齢者の増加を考えると、病院内において高齢者が行動しやすい環境を整えていく必要がある。 本研究では、通院高齢者が多いA病院を対象とし、外来受付場所などの変更など外来配置換え前後の患者および病院スタッフの動線の変化を検証することを目的とする。特に、外来での混雑の原因となる項目を抽出するとともに、配置換え前後における病院スタッフや車いす利用者、杖歩行者の動線変化を解析する。