レンサ球菌の病原性解析とそれに関わる病原因子の検索

A群レンサ球菌(グラム染色像)(日本細菌学会資料)

グラム陽性球菌に属する病原菌には黄色ブドウ球菌とレンサ球菌が含まれます。その中でもレンサ球菌は、1980年代から現在まで発症例・死亡例が相次いでいる「劇症型レンサ球菌感染症」の原因菌として知られています。レンサ球菌が大きく6つのグループからなり、各グループに多くのレンサ球菌種が存在していますが、「劇症型レンサ球菌感染症」の原因菌として報告されているものとしてA群レンサ球菌とG群レンサ球菌が挙げられます。

研究室では、2016年より、劇症型症例から分離されたA群並びにG群レンサ球菌の病原性解析とそれに関わる病原因子の解析をすすめています。現在、我が国で劇症型レンサ球菌感染症の最も多い原因菌であるC, G群レンサ球菌 Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis (SDSE)の病原性について、メタゲノム解析や病原因子の分子生物学的解析を通じて研究を進めています。

一方、「劇症型A群レンサ球菌感染症」の発症原因についても研究をすすめています。発症者からA群レンサ球菌が分離されることから、これが原因菌であることはわかっていましたが、この細菌に感染しても発症しない人がかなり多く、「劇症型A群レンサ球菌感染症」の発症にはA群レンサ球菌のみでない、何らかの環境要因があるのではないかと考えました。

当時の文献で、インフルエンザが流行する寒冷期に「劇症型A群レンサ球菌感染症」の多く発症するピークが存在することが報告されていたことから、我々は、インフルエンザウイルスとA群レンサ球菌との混合感染によって、「劇症型A群レンサ球菌感染症」の発症がみられるのではないかと考え、その可能性を検討しました。そしてマウスを用いた実験でそれぞれ単独感染では致死効果を認めない微量のインフルエンザウイルスとA群レンサ球菌との混合感染によって、90%以上のマウスが「劇症型A群レンサ球菌感染症」の症状を呈して死亡することがわかりました。

さらに我々は、上記混合感染による「劇症型A群レンサ球菌感染症」の発症のメカニズムを検討し、肺におけて、インフルエンザウイルス感染した肺胞上皮細胞へのA群レンサ球菌の付着・侵入の増強が劇症型感染症発症の原因であること、また、その増強にインフルエンザヘマグルチニンとA群レンサ球菌莢膜が関与していることを明らかにしました。

最近では、大阪大学大学院歯学研究科との共同研究により、インフルエンザウイルスと肺炎レンサ球菌との混合感染において、インフルエンザウイルス感染により肺胞上皮細胞表面にGP96が発現し、それによって細胞表層のインテグリンαVの発現が増強し、それと肺炎レンサ球菌との付着が増強し、インフルエンザ後の肺炎レンサ球菌感染による細菌性肺炎の発症に関与することを明らかにしています。

呼吸器や口腔領域は、多くの病原微生物の感染経路であると共に、代表的な常在菌叢として多くの微生物が常在しています。我々は、これらの部位での各種ウイルス―細菌混合感染による重症感染症発症の可能性とその発症のメカニズムの詳細を明らかにするとともに、これらの感染症に対する有効な予防法・治療法ならびに同感染症に対する迅速検査方法を検討していきたいと考えています。

各部位の常在細菌叢の構成変化(ディスバイオーシス)と疾患発症との関連性

高齢者、有病者、要介護者は、免疫力の低下により易感染性宿主になっていることが多いことが知られています。その結果、若中年層の健常人と比べて日和見感染症の発症率が高く、健康的生活の保障及び、生活の質の向上の大きな障害となっています。

例えば褥瘡は長期入院の高齢者を中心に発症するとされ、褥瘡後感染による敗血症などを発症し、死亡することもあります。しかし、褥瘡後感染になる患者とならない患者が存在し、その違いはよく分かっていないのが現状です。

我々は、この差に皮膚に存在する常在菌叢(多種の細菌が共存して存在している状態)の構成が存在するのではないかと考え、その調査を始めました。その結果、皮膚細菌叢高齢期に急速に変化するとともに日和見感染症原因菌の増加がみられることを次世代シーケンサーによるマイクロバイオーム解析などにより明らかにしました。

この研究では、加齢や有病状態により免疫力が低下した人々のバリア部分にあたる皮膚ならびに粘膜における常在細菌叢の構成の変化を解析するとともに、免疫力の低下した人々に多くみられる「日和見感染症」を代表とする各種疾患やそのきっかけとなる各種健康障がいと常在細菌叢の変化との因果関係とその微生物学的・分子生物学的理由について明らかにし、その予防、緩和ケアを達成するための科学的根拠に基づいた対策法を確立することを目標としています。 また、この研究から派生して、腸内、口腔細菌叢の構成変化と各種疾患発症リスクとの関連に関する研究を進めており、塩分非依存性高血圧や脂質異常症に特徴的な腸内細菌叢の特徴を見出しました。