大阪大学大学院医学系研究科・生体病態情報科学講座 免疫造血制御学研究室

研究テーマ

抗腫瘍免疫の動態解析

WT1マウス腫瘍モデルを用いた抗腫瘍免疫の動態解析

我々のグループではWT1蛋白を癌抗原として認識するマウス腫瘍モデルとして、C1498細胞株やB16細胞株を用いた皮下腫瘍モデル、MLL/AF9を遺伝子導入した急性骨髄性白血病発症モデルなどを作成してきました。これらのマウス腫瘍モデルを用いてWT1特異的なCTLを誘導できるWT1-126ペプチドを用いた癌ワクチン療法により腫瘍を拒絶できることを示しました。更にWT1特異的なヘルパーT細胞を誘導できるペプチド配列も同定し、WT1-126ペプチドとの併用ワクチン療法により、WT1特異的CTL反応が増強・維持され、結果としてより高い拒絶率を示すことを証明しました。このヘルパー機能CD4+T細胞とCD8+T細胞の双方に同時に抗原提示する抗原提示細胞(樹状細胞)の存在が不可欠であり、樹状細胞-CD4+T細胞-CD8+T細胞の3種類の細胞クラスタの形成が重要であることが分かりました。

最近、腫瘍内の免疫細胞の解析を行う手法を確立し、ヘルパーペプチドの併用により腫瘍でのWT1特異的CD4+T細胞が増加し、その結果、腫瘍でのWT1特異的CD8+T細胞頻度が約30倍にも増加することを明らかにしました。この結果は、腫瘍内においても、樹状細胞-WT1特異的CD4+T細胞-WT1特異的CD8+T細胞の3種類の細胞クラスタが形成され、その結果WT1特異的CTLが腫瘍内において分裂・増殖している可能性を強く示唆しました(下図、Nakata J et al, Oncotarget 2018)。近年、腫瘍内でこのように分裂・増殖しうるresident memory T細胞と呼ばれる細胞集団が抗腫瘍免疫に関与していることを示唆する報告が相次いでおり、現在我々は腫瘍内におけるresident memory T細胞と抗原提示細胞、CD4+T細胞との関係性を解析しています。

また、我々はワクチン接種部位の免疫動態に関しても解析を進めています。ワクチン接種部位にはモンタナイドが遺残し、癌抗原も年単位にわたりプールされると報告されています。しかし、一方で癌ワクチン療法は1回投与ではなく継続的な投与が必要であると考えられています。我々はこの原因の1つとしてワクチン接種部位皮膚では1カ月以上経過すると免疫抑制性の細胞集団が誘導され始めることを見出しました。この細胞集団に関しても現在解析を進めています。