大阪大学大学院医学系研究科・生体病態情報科学講座 免疫造血制御学研究室

研究テーマ

CAR-T細胞療法

新規「CAR T細胞療法」の開発

多発性骨髄腫において、活性型の構造を有するインテグリンβ7が特異的に高発現し、がん免疫療法の一つであるCAR-T細胞療法の標的になり得ることを発見しました。多発性骨髄腫は代表的な血液がんの一つで、日本における患者数は約1万8千人と言われています。治療の進歩は著しいものの、未だに治癒は極めて困難です。治癒を目指した治療として免疫療法は極めて有望であると考えられ、中でも細胞表面抗原を標的とするCAR T細胞療法は極めて強力な新規治療法として注目を集めています。CAR T細胞療法を開発するためには、がん細胞に発現しているが、正常細胞には発現していない“がん特異的抗原”が必要ですが、がん特異的な遺伝子やタンパクの探索はすでに世界中で徹底的に行われ、新規治療標的の同定は極めて困難と考えられておりました。しかし、本研究グループは、骨髄腫細胞では正常血液細胞と異なり、インテグリンβ7というタンパクの多くが常時活性化した状態にあるために、インテグリンβ7が活性型構造をとった時にのみに露出する抗原が骨髄腫特異的抗原となり得ることを発見しました。さらに、それを標的としたCAR T細胞が骨髄腫に対して著明な抗腫瘍効果を持つことを示しました。これらの発見により、本研究グループは、骨髄腫に対する新しい免疫療法の開発に成功したのみならず、タンパク自体ががん特異的でなくとも、 タンパクのがん特異的な“かたち”ががんの治療標的となり得るという新たな概念を提示しました(図1)

図1 インテグリンβ7の活性化型立体構造を標的としたMMG49 CAR T細胞療法

骨髄腫細胞においてはインテグリンβ7が高発現している上に、その多くが常に活性化した状態にある。一方、正常のリンパ球にもβ7は発現しているが、ほとんどの場合不活性型構造をとる。活性型構造でのみ露出する部位を標的にしたCAR T細胞により骨髄腫細胞を特異的に攻撃することが可能である。